『サブスタンス』基本情報
『サブスタンス』(2024年)
監督/脚本/編集/製作:コラリー・ファルジャ 主演:デミ・ムーア マーガレット・クアリー
『サブスタンス』あらすじ
50歳の誕生日を迎えたオスカー女優エリザベス・スパークル(デミ・ムーア)は、長年レギュラーを務めた朝のフィットネス番組から降板させられる。
動揺したエリザベスは車の事故を起こしてしまう。奇跡的にほぼ無傷だったが、病院にいた男から「サブスタンス」という再生医療の勧誘を受ける。それは、「一回の注射で若く美しい、より良い自分を得られる」というものだった。

※劇中のエリザベスは50歳の設定だが、撮影時のデミ・ムーアは59歳。
『サブスタンス』の感想
観もしないうちから(笑)
この『サブスタンス』の日本公開より前に米アカデミー賞の発表でしたが、なんかしらんけど『アノーラ』が賞を取りまくり、私は勝手に
「作品賞は『教皇選挙』、主演女優賞はデミ・ムーアにやればよかったんじゃないの?」
と、この時点で3つとも全く観てもいないのに勘でそう言ってたんですが(笑)
『サブスタンス』を劇場鑑賞した今、
「主演女優賞は絶対にデミ・ムーアにやるべきだった!!」
「アカデミーの野郎!!!」
と、デミの親戚でも何でもないのに勝手に憤慨しています
(ちなみに『教皇選挙』も観ました。『アノーラ』は観る予定ありませ~~ん)
とか言ってるとデミムーアびいきなのか?と思われるかもしれませんが、私はこれまでデミムーアについて「嫌いでもない代わりに、一度も良いと思ったことがない」状態で、何も興味がありませんでした
だが『サブスタンス』を観て……
ハッキリ言ってデミの演技に感動した!間違いなく名演技であり、しつこいようですがアカデミー主演女優賞は絶対にデミにやるべきだったと思います。
それは、単に「醜い姿もさらして体当たりの熱演だったから」という理由ではありません。この映画のデミはとても魅力的だった(最初から最後まで)。
私にとって初めてデミが魅力的に感じられたサブスタンス記念日(笑)(笑)

現実よりは汚くない世界
【一応そんなにすごいネタバレは書いてないと思いますが、何も知りたくない人は読まないで下さい】
結論から言って『サブスタンス』は個人的にとても心に残る、お気に入りの映画となりました
●今まで注意を向けたことのなかったデミ・ムーアの名演技に感動
●『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に出てたのは観てる筈なのにどうとも思ってなかったマーガレット・クアリー、素晴らしい女優だと分かりビックリ
そしてアンディ・マクダウェルの娘と知って「トンビが鷹を生んだのか!?」とビックリ
↑失礼かもしれませんが、自分の中でアンディ・マクダウェルは評価の高くない存在なので……映画の間中ずっと同じ表情だし……
とはいえ、映画館で観ている最中に気になる……というか気付いてしまうような事もいろいろありました。
まず、必要かどうか分からない「物のアップ」が多いなとか。シャワーの水の出る所とか、灰皿をわざわざ底の方からアップで撮ったりとか
こういうカットを見せられると、観客はなんとなく「上手な映像」「意味のある映像」「芸術的な映像」を見せられてるような気になりがちで、「いい映像」だと錯覚する雰囲気になるんですよね
なんかそれが気になった(笑)
(※エリザベスがサブスタンスのUSBメモリを一旦ゴミ箱に捨ててまた拾うのを底から撮ってるのは、ちゃんと映像的に意味があるのでいいと思いましたが)

それとエリザベスがサブスタンスを注文すると決めた時、費用の話が全然出てこないところ。「いくらするんだろ?」と思って見てると、何もその辺の言及なくキットを受け取り注射をし始める
「100万ドル?それとも全財産?それともモニター無料?」などと考えてた所に費用ノータッチで進行するので、観客の私としてはそこで気が散ってしまいました
ややこしくなるからお金の問題をストーリーに入れたくないという事であれば、「今ならモニター無料です」とか何とか一言入れてくれたら気にならなくて済んだと思います。
しかしこの「お金の問題が登場しない」というのは、この作品のストーリーの「信用度」を下げているような気もします。
サブスタンスという治療(?)、この、ストーリーの根幹の部分に既にリアリティが無いんだから他の事もリアリティが無くて構わないのかというと……逆なんじゃないかと……
フィクション内のある部分にリアリティが無い場合、他の部分で「リアリティの補充」が必要なのかもな……と、今回この『サブスタンス』を観て考えました
エリザベスがレギュラー番組を降板させられてショックを受けますが、そこにお金の問題(レギュラーなくなったらこの先の生活に困る、家賃が払えない、とか)はあるのか、ないのか、よく分からないんですよね
映画を観てる感じでは「お金の問題はない」ようなカンジ……?まぁレギュラー持ってると金持ちになるから、映画の側としては「言うまでもなくお金には全然困ってないわよ」「そんな事いちいち説明しなくても分かりなさい!」ってカンジなんでしょうか(笑)でも私はお金の事が気になってしまった
それとエリザベスの周囲には「誰も」いないようだ。家の掃除をするお手伝いさん(すごく太ってる)は映りますが、お手伝いさんとは個人的な間柄ではないから除外して、家族もエージェントも友人も誰もいないようだ。
これが現実世界だったら、ハリウッドにはエリザベスのような人を獲物と狙うような人間がウロウロしてると思います。その女優が加齢で魅力を失いつつあるなら最も好都合でしょう。自分にだけすがりついて金を使わせてくれるから
孤独・金持ち・加齢が揃ってたら、絶対誰か悪い男が(または女が)くっついていそうな物ですが、エリザベスの周りには特に悪い人もいないようだ
なにしろナンパされたそうに背中の開いたドレス着て一人でバーに行ったり、単なる同級生のおじさんが「今でも変わらずキレイ」と言ってくれたことにすがりついたりしてるし

それとエリザベスを降板させる番組プロデューサー(デニス・クエイド)ですが、ものを食べてる汚らしい口元をアップにしたり、やたらと生理的不快感を惹き起こす撮り方をされてますが、この人別にそこまで「悪く」ないんじゃ……むしろ業界人としてはかなり「クリーン」な方ではないのか?もしかしたらこんな「クリーン」な業界人なんて存在しなくて、非現実的なんじゃないのかとまで思ってしまった
というのも、サブスタンスによって生まれたエリザベスの若い方(スー)がこのプロデューサーの新番組に応募して採用されますが、現実世界だったらこういう時
「実はもう一人有力な候補がいて……(自分と寝れば、君に決めてあげる)」
とか、スーに持ち掛けそうな気がします。実際はスーがぶっちぎりで採用で、他に有力な候補なんて一人もいなくても、こんな風に言って「得をしよう」とするのはよくありそうな気がする
でもこのプロデューサーはそんな汚い事はしないし、単に「良い子が見つかった」「カワイイし大人気☆」と純粋にビジネスとして喜んでいて、スーに触ったり個人的に付き合おうとしたり、そういう事は一切やっていない。クリーンな人だと思います。ただ食べ方が汚いのとトイレ行って手を洗わないっていうだけじゃないのか(イヤだけれども/笑)
そんな感じで、スーは最初から正当に扱われているんですよね。ここも非現実的ポイントではある
だって、人間が正当に扱われることなんてそうそうありますか?ましてや業界に入ろうとしてる若く美しい女の子が……そんなんだったらこの世の中、あの業界、誰も泣いたり苦しんだりしてないと思います
(このプロデューサーの「ハーヴェイ」って役名、ハーヴェイ・ワインスタインから取ってるよね、多分)
(なんで『サブスタンス』批判みたいになってるんだ?好きですからねこの映画/笑)
あと気になったのは(←まだあるの/笑)
エリザベスは「体を一週間ごとに乗り換えてる」のであって、彼女の意識はずっと途切れのない「連続した一つの意識」のはずですよね。
それが劇中だと、エリザベスにはエリザベスの意識、スーにはスーの意識が別々にあるような感じになっており、体が切り替わった時に一方が一方のやった事に驚いたりしている(部屋が散らかってるとか)。そこにどうも違和感を感じ
これをどう考えたらよいのか、「体が2つあると結局意識もそれぞれのものができてしまう」という事なのか?
それとも体が2つある事によってエリザベス(という一つの意識)が二重人格を「発症」してしまったのか?(二重人格の状態であれば、片方のした事に驚くのは「あり」です)
……というカンジでまた気が散ってしまったのです
いや、ホントに私この映画好きですからね!(笑)パンフレットも買ったからね!
「ホントは好きなんですよ~」って言い訳しながら悪口書いてるのとも違います。私イヤだったらイヤ、嫌いだったら嫌いってハッキリ言いますから
上記したような「意識」に関する疑問もあるけれども、エリザベスとスーが「本体」と「若い分身」で「本来は一つ」でありながら、まるで現実世界の母と娘のようなお互いへの憎悪を持ち始めるところなど、リアルじゃない設定にリアルな感情が流れていてよかったですね
デミ・ムーア、最後のシーンも本当に良かったです
エリザベスの顔がハリウッドのヤシの木越しの夜空を見上げる。そう、いま彼女が奇妙に安らかな表情で見上げているのは「スター」達……。
このシーンからも、監督がこの作品においてエリザベスをちゃかしたり突き放して皮肉に描いたりしていなくて、最後まで「真面目に扱っている」のが伝わってきました。
最後に、スー役のマーガレット・クアリーさんがだいぶ前に出演した「ケンゾーの香水のCM」、この表現力の凄さ、素晴らしい仕事をぜひご覧いただきたいと思います。