ビョルン・アンドレセンのドキュメンタリーです
去年(2021年)の12月に映画館で見てきました
映画館で一回見ただけのうろ覚えの感想をお届け(笑)
『世界で一番美しい少年』基本情報
『世界で一番美しい少年』2021年 (原題:Varldens vackraste pojke)
監督:クリスティーナ・リンドストロム/クリスティアン・ペトリ 主演:ビョルン・アンドレセン 制作国:スウェーデン
『世界で一番美しい少年』あらすじ
ルキノ・ヴィスコンティの名作『ベニスに死す』(1971)に15歳で出演し、信じられない程美しい容貌で世間に衝撃を与え「世界で一番美しい少年」と言われたビョルン・アンドレセン(スウェーデン人)。その美貌は伝説となった。それから約50年が経って、『ミッドサマー』に出演した彼は白髪と白いひげのおじいさんとなっていた。本作は彼の生い立ち、美少年時代、その後の人生、そして現在を伝えるドキュメンタリーである
『世界で一番美しい少年』の感想
ミッドサマーつながりですが……
前回の記事:映画『 ミッドサマー 』の感想 ~文化と価値観からの解放~からビョルン・アンドレセンつながりです。
映画館で見ました。ま、映画館つっても小さいスクリーンでしたけど…… 席はよく埋まっていたと思います。(席の数が少ないんですが)
このドキュメンタリーを見るにあたって、私は『ベニスに死す』は見たヨということ以外、ビョルン・アンドレセンについて何も知らない状態でした。
それどころか、2005年頃までの私はビョルン・アンドレセンって亡くなったと思ってた(笑)スイマセン
2005年頃に「ビョルン・アンドレセンって死んでないよ!」と親戚に教えられ(なんで親戚とビョルン・アンドレセンの話してんだよ/笑)エッ!そうだったの……となり
何か他の人とごっちゃになってたのか、嘘の死亡説を聞いてそれを信じていたのか 今となってはよく分からないんですが、どうしてだかそう思っていて、『ベニスに死す』を見てる時も「この人亡くなったんだよねぇ」とか思いながら見てた ホントに失礼しました(笑)
という訳で「『ベニスに死す』の美少年」ということ以外何も知らずに見たこの作品
私にとっては「エッ、そうだったのか……」と思うことが多かったです
この先はネタバレ、というか……ドキュメンタリーだからネタバレというのも変だが、内容を知りたくない人は読まないで下さい
なにしろ映画館で1回見ただけだからうろ覚えで申し訳ないんですが←じゃ書くなよ(笑)
妙に暗く重苦しい感じの映像と音楽で始まりました。この部分が思いのほか長くていきなり少し退屈しましたが
それから、現在のビョルン・アンドレセンがなんか大家さんに怒られてるというか、「コンロの火をつけっぱなしにした」とかで問題になって、若い彼女と一緒に申し開きをしてる場面となる
ここもけっこう長くて、やや退屈(笑)
しかし年をとっておじいさんになったビョルンの、何となく気難しそうな感じは見て取れる
それから、彼女が大家さん対策で部屋を掃除してくれたというのが分かる。
彼女が「この部屋がいかに汚かったか」を熱心に語ってるので、今こうして映画に映ってるのはかなりキレイになった状態なんだろうなと思う
映画はこんな風な「現在のビョルン」と、写真やアーカイブ映像の「美少年時代のビョルン」が交互に出てくる感じで進んでいきます。
それで彼の生い立ちが紹介されるんですが、何も知らなかった私はそこでもう「エッ」ってなった
彼の母親は、『ベニスに死す』の時よりずっと前に死んでいて、祖母に育てられたと。そのうえ父親が誰なのか分からなくて、誰なのか分からないのに「父親の違う妹」がいて、しかもその妹は同じ年に生まれていると ビョルンが1月に生まれて妹が12月とか、そういう事なんでしょうね
母親の死に方も普通ではなく、森で遺体で発見されたと……Wikiの「ビョルン・アンドレセン」の項には「母親は自殺」と書いてあるけど、映画の説明ではとても「自殺」とは思えないんだけど……
森で見つかった遺体にはコートがかけてあったとか、なんとか……人間は、自殺してから自分にコートをかけるなんてできないだろ??
まぁその辺の細かい話はいいですけど……
とにかく両親がおらず祖母に育てられた。「妹とはとても仲が良く、いつも一緒だった」というのが少し救いに思えてホッとするところではある
しかしその後15歳で『ベニスに死す』に出るわけですね。でも、『ベニスに死す』がデビューじゃないんですねその前に別の映画に出ていたと。これも知らなかった
映画に出るようになったのは、要するに祖母が「孫の美貌を利用して、華やかな世界で成功したい」と望んだから
この『世界で一番美しい少年』で語られる「『ベニスに死す』に出て有名になったせいで苦しかった、大変だった」というのを見てて思うのは、一言で言って「祖母だよな?悪いのは」っていう……
世間が悪いヴィスコンティが悪いっていうより、これに関しては祖母が悪いだろ?責めるとしたら祖母だよなって私個人は感じました
まぁこの映画を見ただけじゃ詳しい事もほんとの事も分からないですけど、これを見た限りでは「育ててやったんだから、せいぜい利用させてもらうわよ?うへへへへへ」みたいな(笑)そういう了見を感じるし、唯一の血のつながった保護者として、少年の「身内への愛」を利用して、愛で縛って言うことをきかせたのではと想像する
ビョルン・アンドレセンは、『ベニスに死す』に出て有名になり、絶世の美少年として評判になって、何が辛かったのかというと
- 「顔がいい」という面でしか見てもらえない。顔がいい以外何にもできない人間みたいな扱いを受ける
- 『ベニスに死す』で演じた役と勝手に混同されて見られてしまう。
- 大勢の人間から、特に同性愛の大人から性的対象として見られること。
……辺りのことですよね。しかしそれもこれも祖母が悪いんじゃないのか 要するに
日本がいっぱい出てくるね
何も知らずに見た私としてはアレッと思ったのは、この『世界で一番美しい少年』、日本がたくさん出てくるんですよね
そして、これ見て初めて知りました。『ベニスに死す』後に、ビョルン・アンドレセンが日本ですごい人気となり、アイドル的にキャーキャー言われ、来日までして日本語で歌ったレコードまで出していたという事を……
私は本当にただ『ベニスに死す』を見たのみで、それ以外の情報を何にも知らなかったんですよね
この、ビョルンが日本でキャーキャー言われ……っていうのが、私の世代よりもちょっとひと世代ぐらい古いんですよね。その頃私アカチャンだし
『ベニスに死す』(1971年作品)を見たのは、たぶん80年代末か90年代初めぐらいだったと思います。
- 日本でアイドル扱い
- 来日
- 日本語で歌ったレコード発売
- 漫画『ベルサイユのばら』のオスカルの見た目のモデルはビョルン・アンドレセン
とか、「えー!そうだったの!知らんかった!!」ということばかりでした。
またこの、日本で出したレコード(明治チョコレートのCMソングだったのね)での日本語の発声が驚くほど上手い。勘がいいんでしょうね。外国語を発声する時って、カンの良し悪しが人によって差がありますけど
よく、単語も文法も勉強して頭に入ってるのに、どうしても口に出して言うときの「勘」が悪い人っているんですが
ビョルンはそういう「勘」がすごく良い感じがします。音楽をやってるのも関係あるんでしょうか
この上手さには感服しました。
このドキュメンタリーの中でおじいさん状態のビョルンは日本を訪問しており、美少年として来日した当時のスタッフの人とか、漫画家の池田理代子さんとか出てくる
見る前には、こんなに日本がたくさん出てくるとは全然予想してなかったので意外でした。
しかし、この作品全体に言えることですが「特に日本のパートで強く感じる『もどかしさ』」のようなものがある
それは例えば、日本でビョルンが『永遠にふたり』(上の動画の、ビョルンが日本語で歌った曲)を「ひとりカラオケ」で歌うシーン
エッ!?今でも歌えんの?歌詞おぼえてんの?いや歌詞を見てるのか?そもそもこの曲カラオケにあんの?っていう様々な「?」が頭に浮かびますが、何の説明もなくそのシーンが出てきて、短く終わる
この映画で一番面白いシーンになり得るところなのに、すぐ終わっちゃうんですよね
最初の方の「大家さんがどうしたこうした」みたいなそれほど面白くないシーンは退屈なぐらい延々続くのに(笑)
制作側の、なんというか「作品として芸術的に編集してまとめたい」という気持ちは分かるんですけど、ハッキリ言って、ビョルンが今回日本の空港に降り立った時にどんな様子だったとか何と言ったかとか、そういう所から見たら面白いだろうになぁ……と思ってしまう
この映画の「メイキング」が別にあればいいんですかね?
日本で、どっかの桜とかちょうちんとかがある所で撮影してる画面とか(ということは、わざわざ桜の開花に合わせて日本に来たんですね)、
これもどこなのかよく分からないけど高級ホテルの高層ラウンジみたいな所で(窓の外にスカイツリーが見える)ピアノを弾くビョルンの映像はとても良く撮れていて美しい(特にこのピアノのシーンは何かのCMみたいだ)ですが、そういう芸術的ショットが黙ってただポンポンと出てくると、説明が欲しくなるのよね
「ここはどこなのか?」とか「どういういきさつで?」とか
日本人だから日本のシーンを見てそう思うだけなんですかね?
私は普段フィクションの映画見てる時は「説明が無いことに感動する」タチなんですけど、ドキュメンタリーだと結構説明が欲しいんだなぁと思いました(笑)
ビョルン・アンドレセンの傷
『世界で一番美しい少年』を実際に見る前は、ビョルンの人生における「傷」とは、『ベニスに死す』に出た美少年として評判を取ったせいで経験したこと「だけ」なのかと思ってたんですが
そうではないというのが、ちょっとビックリしたことだった
上の方に書いた通りビョルンの父親は誰なのか分からず、なんとこんなおじいさんになってもいまだにどこの誰なのか知らないと……
それで母親の親友だったという人におじいさんビョルンが「誰なのか知らないか」と尋ねるシーンがあるのですが、彼女は「知らない」と答える
見てる観客としては、当時親友だったのに知らないなんてことがあるだろうか?と不自然に感じたけど、ま、父親の違う子供を同じ年に産んでる訳だし、もしかしたら母親本人にも「誰の子なのか分からない」というような場合もあるかもしれないけど……
いやでも、ビョルンと妹が「父親が違う」のが分かってるということは、誰だか分かってるから「違う」と分かるわけだよな?ううむ
しかしビョルンに関しては「顔」で分かるんじゃないの?とも思った
近所で超絶顔のいい人がいたら、その人なんじゃないのか(笑)とか
そしてもう一つショックだったのは、ビョルンは自分の子供を亡くしているという事実
結婚して、子供ができて、2人目の子をまだ赤ん坊の頃に亡くしてしまったと……
乳幼児突然死症候群というものなんですね
しかも、その子はビョルンの隣で寝ている時に亡くなったと……これは辛い。こういう時人間は、理屈では誰が悪い訳でもないと分かっていても自分を責めてしまうものです
まさに「想像を絶する」悲しみと苦しみなんであろうな……これは一生背負う辛さだなと想像するしかないのですが
という訳でビョルンの人生における苦しさは、おおまかに言って3つだと分かった
- 親に関すること(母が早く亡くなった、父が誰なのか分からない)
- 『ベニスに死す』に出たことの影響
- 自分の子を亡くしたこと
この映画を見る前に観客が予想してる「彼の不幸」は『ベニスに死す』についてだけなんですが、この映画を見てたら
今の彼にとっては『ベニスに死す』よりも、「親のこと」と「亡くした子のこと」の方が大きく重い苦しみとなってるんではないか、という印象もなんとなく受けました
そして、カメラの前で子供を亡くした時の話をしなければならないとは……。自分のドキュメンタリーなんだから仕方ないと言えばそうですが、単なる赤の他人の観客でも見ていて胸が痛みました。
女は誰でも「世界で一番美しい少年」
ところでこの、ビョルン・アンドレセンが「世界一の美少年」であったがゆえに経験したこと
- 性的存在、性的対象としてしか見てもらえない
- どんな才能や能力があろうが、容姿だけを評価される
- 感情や知性、尊厳を持ち合わせている存在として扱ってもらえない(人間扱いしてもらえない)
等々は、実は
女なら誰でもある程度経験してること
なんですよね
ということは、ビョルンは美少年であったせいで
男なのに、女みたいな扱いを受けた
と、一言でまとめることもできるんですよね
女は、何をやっている人でも「美人か、不細工か」という容姿の評価を勝手にされがちです。
男なら、「普通の人は普通に不細工、それだけ」で終わることなのに
そして女は、「美人」と評価されることにも「不細工」と評価されることにも不利益がある
まぁ要するに、人間は女に生まれてきた時点で社会的に失敗してます。
ビョルンはどうなんでしょうかその辺には「気付いた」でしょうか?これまでの自分の経験から。それともそこまでは気付いてないんでしょうか
とはいえ、別に私は「そんなの、女ならみんな日々経験してることだからね」「たいしたことねーよ」と言いたい訳でもなく
ビョルンが経験したことは確かに特殊で、その気持ちを理解できる人が世界に何人もいないような事柄であり苦しみだと思います。
ただちょっと、このことも言いたくなったというだけなんですけどね
この映画を見て「そうだったのね~、大変だったのね~、かわいそう」とヒトゴトみたいに思ってる女の人がいるとしたら、もしもしあなた、あなたも散々経験してる筈のことですよ!って言いたい感じ(笑)
ま、女の場合は自分を「鈍い・気付かない・分からない」状態にして(そういう形で適応して)逃げて生きることも可能なのは確かですけどね。男にはそういう逃げ場がないですからね
美は呪いなのか
ビョルン・アンドレセンが『ミッドサマー』に出演したことで、約50年前の『ベニスに死す』の美少年だった頃からの「変貌ぶり」が話題となった、と言われてますが
まぁそりゃね、50年経ったら当然おじいさんになるわよね(笑)って感じですが
確かに私も、心の中でビョルン・アンドレセンと言えばあの美少年が浮かびますから、白髪のおじいさんになっているのを見た時は「ほぉ~」「こんな風になったのか……」と思いました。
でも
でもですよ、映画館でこの『世界で一番美しい少年』を見ていて、ビョルンがスクリーンでアップになるのを見てたら突然気付きました。
顔は変わってないなってことに……
年を取っただけで、顔は変わっていない。それにビョルンは文字通り鶴のようにやせていて(ちゃんと食べてんだろうか?それとも太らない体質なのか)、白くて長い髪が豊かにフサフサと生えてるんです。
なんか年を取ったロックスターみたいな雰囲気で、カッコいいんですよね
要するに美老人なんです。美少年が美老人になったという……
「変わった」と思って見ていたが、実は「変わっていない」
その事に気付いた時、私はなにかゾクッとしました。目の前に映っているビョルンに、今も「美」が呪いのようにまとわりついているのを感じた訳です
「美」という不幸が、白髪のおじいさんとなった今でもビョルン・アンドレセンを解放してくれない……
なんということ
「なんということ。」本当に心の中でそうつぶやいていました。なんだか本当にそのことが気の毒に思えてきて
ビョルンも、同じ年を取るにしても太って頭が薄くなっていればもう少し明るくなれたんじゃないのか
とか思ってしまった(まぁ、重苦しそうに見えるのはこのドキュメンタリーの編集でそう見えるだけかもしれないけど……。普段は別にそこまでじゃないかもしれません/笑)
太って頭が薄くなって完全に昔と別人の容姿となり、飲み屋のおねーちゃんか誰かに美少年時代の写真見せて「これ50年前のオレ」とか言って、
「ヤダーー!嘘でしょー-!そんなワケないじゃん!キャハハハハハ!!」
「ガハハハハハ!」
とか(笑)、そういう風にできたんじゃないかとか(笑)
「顔が良いせいで損をしてる役者」の人ってよくいますけど、それどころじゃない、ほんの15歳の子供の頃から背負ってきた「世界一の美少年」という重荷……
私も、これを読んで下さってる方も、誰でも何かしらの重荷を背負ってはいます。でもそれって「世界一」のものではないからね 大抵の場合は
「世界一」っていうのは重いよなぁ、ほんとに……と、タメ息をつくような気持ちになりました
そして、パンフレットは高い気がしたので買いませんでした(笑)
とにかく映画館で1回見ただけなんで、もう1度落ち着いて見てみたいとは思っています