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映画『婚期』の感想 ~1961年の「いまどき」~

映画『婚期』をイメージしたイラスト 日本映画
うし子
うし子

東映チャンネルばかり見ている私に(笑)お友達が(←お友達いたんですか……)大映映画をオススメしてくれました。本当は大映も松竹も観たいとは思ってるんですが(笑)

『婚期』基本情報

『婚期』(1961年) 大映

監督:吉村公三郎 脚本:水木洋子 主演:京マチ子 若尾文子

『婚期』あらすじ

32歳の静(京マチ子)の夫(船越英二)はホテルの社長で、家には夫の妹たち波子・29歳(若尾文子)と鳩子・24歳(野添ひとみ)、その下の弟までいて、一家の主婦としていつも彼らの世話にこき使われている。お手伝いのばあや(北林谷栄)がいるのが救いではある。

波子は習字の先生、鳩子は演劇をやっていて、他に離婚してファッションの仕事をしている一番上の姉(高峰三枝子)が他所で一人暮らしをしている。

波子と鳩子は兄嫁である静を敵視して文句ばかり言い、「あなたの夫には愛人がいます」(←実は本当)という手紙を送りつけたりと陰湿なイジメを繰り返している。

波子は29歳でまだ結婚できないことで焦っており、鳩子も来年は25になってしまう焦りがあり、そういうストレスが兄嫁いじめに向かわせているようである。

『婚期』の感想

1961年時点の「いまどき」な映画

実は最初に観てる時、この映画を「どう捉えたらいいのか」が分からず混乱というか、迷いながら観てる感じでした。
「この映画は何を描きたいのか?」というのが分からなくて

退屈だとかつまらないという訳ではない。面白いのは確かだし、なんと言っても京マチ子、若尾文子、高峰三枝子というスゴイ女優がまさに「競演」してる訳で、そういう見応えはバツグンなんですけれども

何を描いているのか?人間の勝手さ?人間は一人一人分断されていて、愛も共感も無いということを描こうとしてるの?とか思った
何というか「この映画は『人間賛歌』ある系なのか、ない系なのか」という判断に迷ったわけです

観てるうちに段々
「今どき要素を入れたホームコメディですよ~これ観て笑ってね~」
という作品なんだなと、何とか分かってきたのですが
それにしては波子・鳩子の姉妹が兄嫁に向ける悪意がコメディの範疇を超えてるというかあまりに毒々しいので、それを理解するのに時間がかかったという感じでした

それが分かるとまぁまぁ鑑賞も軌道に乗ってきた感じでした。

1961年(昭和36年)、この映画の中ではまだ着物を普段着やお出掛け着として普通に着る習慣が残っています。家には火鉢があるし

若い人の中には「日本人は明治維新の時に着物を着るのをやめた」と思ってる人とか、そこまで行かなくても「敗戦後は着物を着なくなった」ぐらいに思ってる人もいると思いますが、実際は敗戦後でもまだ「普通に着物を着る習慣」は残ってたんですよね。
それが高度成長期に一気に着物がすたれたらしいんですが

1961年は高度成長期の最中で、この3年前に東京タワーができ3年後が東京オリンピックですし、ちょうど一気に世の中がモダンに変わっていく頃(まぁ実は日本は戦前から既にオシャレだったんですけど、新幹線とか家庭用テレビとか、そういう意味でのモダンですね)にあたり、最後の「普段着物の姿」がこの映画には残っているのかも

それと「60年代に入った、もはや50年代ではない」という、数字に影響された世の中の「気分」も、この頃は相当あったのかなと想像してます。(私まだ生まれてないんで想像ですが)(ほんとです生まれてないですよ←しつこい/笑)

それでこの当時の「いまどき」な要素が、この作品では多く表現されてるようです
野添ひとみさん演じる鳩子の言葉遣いの乱暴さとか、ばあやに「黙れババア うるせえぞ」って言ったりとか(笑)

静と夫が3年前の新婚旅行での初夜のことを口に出して話したりとか、50年代までの映画ではちょっと無かったんじゃないかと思います(調べた訳じゃないから正確には知らないけど)

劇中で一番下の弟が存在感無いくせに(笑)家に彼女連れてきて、その彼女っていうのが彼氏の家に来てもロクに挨拶もできない、玄関で脱いだ靴も揃えないしタメ口だし、あげくの果てに初めて来た他人の家で大きな声で「メンスになっちゃった~」って生理用品をくれと要求と、しつけもたしなみも何もないどうしようもない「いまどきの娘」として出てきています(これは令和の今でもアウトですが/笑)

今だと「ネット、スマホ、SNSと、いまどきな要素を入れたよ~」って感じの映画よくありますよね。この当時にリアルタイムでこの『婚期』を見たらそういう「いまどき感」がかなり強かったんだろうなと思います

細雪+シンデレラ風味(+『百万長者と結婚する方法』風味)?

「なんか『細雪』と似てる感じもあるな?」と最初思いました。

谷崎潤一郎の小説『細雪』では4人姉妹で、一番上の姉が本家を継いでいて、主人公格の次女の家(分家)に未婚の三女・四女が来ており
この三女・四女の結婚問題がストーリーの軸となっている。
『婚期』の静は嫁であるし同じではないですが、シチュエーション的に似てる感じがしました。

『細雪』で縁談がまとまらない三女・雪子は30歳で、『婚期』の波子は29歳、劇中で波子がお見合いをし、そのお見合い相手が気に入らないというあたりも細雪チックです

そして夫の妹2人組にこき使われている静がシンデレラみたいで(笑)ただし、このシンデレラはもう王子様と結婚した後なんですよね。3年前の29歳のときに今の夫と結婚して玉の輿に乗ったと作品中で語られています

若尾文子さん演じる波子は目が悪くてメガネをかけるんですが、美女にメガネの取り合わせ、そして劇中にファッションショーが出てくるところ、『百万長者と結婚する方法』(1953)風味も感じました。

マリリン・モンローが「ド近眼」美女を演じていて、メガネをかけた時の顔が素晴らしく美しいんですよ!
あんなキレイなメガネ顔見た事ないです。あれは映画史に残るメガネっ娘だと思います。若尾文子さんのメガネ顔もとても魅力的で、美女はメガネ映えするんですね

北林谷栄の名演!

京マチ子、若尾文子、高峰三枝子と、燦然たる名女優が揃った本作ですが、実は最も名演技かつ魅力的だったのがお手伝いの「ばあや」役の北林谷栄さんだったという(笑) ※個人の感想です

北林さんは30代の頃から老け役をやっていたそうで、この映画の時もどうせ実際はまだ若いんでしょ?と思って調べたら、この時50歳みたいです

年下です……

(笑)(笑)
どうするんだオイ

脚本のセリフの面白さを最も生かしていたのも北林さんだった気がします。

北林さんが「命令系統が……」とか「もう労働基準を超過しておりますからね」とか言う度になんとも言えないおかしさ、味わい深さがあって、この声とセリフ回しのコントロールの巧みさ、「上手い!さすが名優!!」と心の底から感心させられます

これより前の時代の映画では「ばあや」役が「労働基準」とかいうセリフを言うことは無かったんじゃないかと思えるし、こういうのもこの時の「新しい面白さ」だったんでしょうね

波子や鳩子が「私たちが主人で、お前は使用人だ」という態度を取っても、未婚で焦ってる姉妹に対して「ばあや」は3回も結婚してるから余裕がある所もオカシイですし(笑)

とにかく北林さんの全ての瞬間が素晴らしい。この名演は必見でございます

人間賛歌があるのかないのか

そんな訳で結局のところ面白くお気に入りの映画にはなった訳ですが、最初に感じた疑問、「この映画は人間賛歌がある系なのかない系なのか?」ということについては、結局最後までよく分からなかった。
ここで言う「人間賛歌」とは何なのかというと、

例えば『ゴジラ(第1作)』(1954)、『シン・ゴジラ』(2016)、『ゴジラ-1.0』(2023)この3つの映画。

●ゴジラ(第1作)は原点・正統、
●シン・ゴジラはシンと言うだけあって従来と違う変わったゴジラ、
●ゴジラマイナスワンは大胆にも第1作より古い時代を舞台に設定した点で特異な、最新のゴジラ

という風にそれぞれ違っているんですが、これらはどの作品にも「人間賛歌」があります。人間が努力をして状況を解決するという、人間の意思や力、人間という存在そのものを肯定する精神があるわけです

一方『大怪獣のあとしまつ』(2022)という映画があって、これは低評価、酷評の嵐で話題になりました。

当時もうSNSでもみんな怒っちゃってて(笑)罵詈雑言を浴びせられてる感じでした。

これは個人的に「予告がよくなかった」(予告で「シン・ゴジラみたいな映画なのかな?」と思わされたので、予告の段階で「これはふざけた映画なんですよ」と分かるようにしていればあそこまでの拒否反応は無かったのでは……観客は「予想/期待したのと違う」と怒ってしまう傾向が強いので)のもあると思うんですが、あそこまで嫌われたのは「単に面白くなかった」という事もあるかもしれないが、「根底に人間賛歌のない映画」というのも大きかったんじゃないかと……

『大怪獣のあとしまつ』は人間を愚かで無力な存在として突き放して描き、最後まで人間を軽蔑している映画でした。それで私は「人間賛歌がある系……ない系……」という事を考え始めたんですが

まぁ大抵の映画は「ある系」でしょうけどね。だいたい映画を作るという行為自体が人間賛歌なんで……ほとんどの場合は

人間賛歌のない映画というとサッと思い浮かぶのが、ロシア映画の『ラブレス』(2017)ですかね
あんまり細かい内容憶えてないけど(←おぼえてないんかい)タイトル通り愛のない、人間を肯定しない、信じない映画だったですね その分現実に近いかもしれないけどね

それでこの『婚期』ですが、ラストの「あれっ」と拍子抜けするような展開、静とその夫の成り行きを観ていても「ここまでオモシロ扱いで皮肉に描いてきたけど、それでも結局人間は愛すべき存在ですよ」と言ってるのか、言ってないのか……

「結局夫婦というのはこんなもんで……」というラストが、この夫婦を(ひいては人間を)「肯定してるのか、してないのか」私にはどっちとも分からなかった。私の鑑賞力が低いの??

もしこの『婚期』が「人間賛歌ない系」の作品だとすれば、単に名女優のコメディ演技を楽しんで、ホームコメディで笑って下さいだけでは済まされない、根底に不気味なものがある映画なのではないかと思ってしまうのですが

まぁ脚本家も監督も別にそこまで考えてるワケじゃないかもしれないですけどね(笑)

うし子
うし子

ところでこの『婚期』、なんとWikiに項目が無いんですね~。なんでなんだろう
どこもかしこも蛍光灯で照らしましたみたいなノッペリした映画と違って画面に陰影があって美しいし、いい映画である事は間違いないと思うんですけどね

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