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『侍タイムスリッパー』の感想 ~個人的2024年のベスト映画~

『侍タイムスリッパー』サイン入りポスター 日本映画
うし子
うし子

『侍タイムスリッパー』
映画館で3回(うち1回は舞台挨拶つき)、「デラックス版」を1回みました

『侍タイムスリッパー』基本情報

侍タイムスリッパー』(2024年) 未来映画社

監督/脚本/撮影/編集:安田淳一 主演:山口馬木也 冨家ノリマサ 沙倉ゆうの

『侍タイムスリッパー』あらすじ

幕末の京都。会津藩士の高坂新左衛門(山口馬木也)は家老の密命を受け、丸顔の同輩と共に「ある長州藩士」を討とうとしていた。
だがその時雷に打たれてタイムスリップが起こってしまい、気がつくと現代の京都撮影所にいたのだった。
たった一人で未来の日本に投げ出された新左衛門だったが、撮影所の助監督をしている若い女性(沙倉ゆうの)やお寺の善良な夫婦に助けられる。
やがて新左衛門は剣術の腕を生かし、時代劇の「斬られ役」として撮影所で働くことになる。

『侍タイムスリッパー』の感想

福本清三さんのお陰で観た映画

これはウチにある本

結論から言ってこの『侍タイムスリッパー』は自分の2024年ベスト映画なのですが、もう少しで私はこの映画を観ないところでした。

だって「評判になってる」とか「人気の映画」とか聞いたら、自分の場合は観ない可能性高いんですよね……しかもその後「日本アカデミー賞とった」とか聞いたらますます観なかったでしょうね(笑)

しかし福本清三さんのお引き合わせでしょうか、福本さん主演映画『太秦ライムライト』の公式アカウントをXでフォローしていて、そこの引用リポストによって「福本さんへのオマージュがある作品」と知り、即座に「あ、観に行こう」と決めたのでした 2024年9月でした。
これ↓

↑全国上映が始まった頃だったんですね。
という訳でこのポストによって『侍タイムスリッパー』という作品を知り、福本さんつながりで鑑賞を決め、10月初めに観に行きました。

うし子
うし子

●まず「斬られ役」という題材が福本さんであり、
●劇中で撮影所所長が「一生懸命頑張ってれば、誰かがどこかで見ていてくれる」と言う福本さんの言葉からの引用、
●山口馬木也さんが殺陣で斬られた時に後ろにのけぞりながら倒れるところ、

●劇中の『最後の武士』という映画タイトルは福本さんが出演した『ラストサムライ』から
福本オマージュが色々ありましたね

観客の利益を大事にする監督

そうして観た『侍タイムスリッパー』、すごく良かった。「観に来てよかった」と思いました。
なにがそんなに良かったのか……

まずこの作品は2時間11分と結構上映時間が長いんですが、観客を退屈させない。
映画が始まってすぐにストーリーが動き出し、

●主人公が会津藩士であり、
●剣の腕はかなり立つこと、
●ある長州藩士を討とうとしていること

が会話で(不自然さを感じさせずに)説明される。
それからすぐタイムスリップして、現代の京都撮影所に移行と、テンポよく進むので観客に「我慢」を強いないんですよね。

映画を劇場鑑賞してると「この映画、長いなぁ……」ってなることが結構多いです。
実際は時間の長い短いじゃなく、退屈して飽きてきてるんですが
「早く終わらんかなぁ、早く帰りたいな」と思う時よくあります。
『侍タイムスリッパー』の場合は時間が長いにも関わらず、そういう風に途中で疲れたりしなかったですね。最後まで我に返ることが無く集中して観ていたと思います

そして安田監督の画面は内容を明快に映している感じで分かりやすく、「お前らオレの芸術にガマンして付き合えよ~!」というような押しつけがない。監督の満足より観客が優先されている。

これは、安田監督が卒園式とか結婚式を撮影する仕事をしてるのも関係あるかもしれません。
必要なものが映っていて、顧客が喜んで満足してくれる映像を納品するという……

かと言って、この作品がただ娯楽のみに徹している「芸術性の低い」映画なのか?というと、そんな事は全くない。むしろ娯楽なだけの映画とは正反対ですよね。
ワタシはあんまりそ~ゆ~、画面について語る能力がなくて、「感想者」としては内容のことばっかり言う人間なのは自覚してますが(笑)2600万円で作った映画なのに画面に安っぽさがないんです。
他の映画と比べて予算が少ないから……みたいな事は、観てる間に全然意識しないです。
そういう「ハンデ」を考慮してあげる必要がない。他の映画と対等でいい。これは凄いです

主人公の侍が、お寺の夫婦とダイニングキッチンで食事してるシーン
こういう何でもないようなシーンの画面が本当にいいんですよね。こういうのはむしろ、他の予算の多い映画の方が安っぽく見えてる率が高いと思います。
喫茶店で話してるシーンとか「中打ち上げ」のシーンとか、本来あんまり映えなそうな時が実によく撮れてるなと
「撮影が上手いんだな~」
「編集が上手いんだな~~」
という「小並感」(小学生並みの感想)しか出せないのがもどかしいですが(笑)

優れた脚本

※これ以降はストーリーに関するネタバレを書いています。未鑑賞で知りたくない方は読まないで下さい。

それにしても『侍タイムスリッパー』というタイトルからして良いですよね。
侍がタイムスリップしてくるんだな」って分かるじゃないですか、タイトルの時点で!!(笑)
人間、自分の気の利いたところを示したくてチョットひねったタイトルをつけたくなるものですが……このストレートなタイトルにした所が「偉いなぁ」と思うわけです。
意外とできない事だと思います。

しかし昔の人がタイムスリップして来ること自体は目新しくもなく、時代のギャップに戸惑って騒動が起こりーの、それでクスッと笑えたりしーのというのが容易に予想でき、それだけではこんなに良い作品にはなりようがありません

現時点で3回劇場鑑賞してますが、最初に観たときすごく感心したのが、「もう一人の侍」が現代に来ていると後半で分かるところでしたね
そう来たかーーー!!」て感じでした。

撮影所で斬られ役として働いて頭角を現しつつあった新左衛門は、突然「キャリア30年の時代劇の大御所」に相手役として抜擢される。
この大御所こそが、幕末の京都で新左衛門が斬ろうとしていた長州藩士だった。
彼は新左衛門よりも30年早い時点にタイムスリップしており、やはり斬られ役になり、やがてスターとなり、そして10年前に時代劇を捨てていた。

この脚本には本当に唸りましたね。30年早く来てたっていうのが……
幕末の時点では新左衛門より若かった彼が、現代で再会した時には年上になっている。
SFだね!SFですわ!!
もうやたらと感心しました。

新左衛門と大御所がタイムスリッパーだというのを周りの人には言わないのも良いんですよね。
彼らが「本物の侍」だというのはお互い同士しか知らない……
この2人にしか分からない気持ちが、「時代劇の灯を消したくない」というこの作品のテーマにつながっていくところが見事なんです

それからヒロインね。
撮影所で助監督をしながら監督を目指している若い女性・山本優子が新左衛門に親切にしてくれ、明らかにお互いに好きになるんですが
劇中では2人の関係は特に進展しないのが、上品で私は大好きですねぇ

新左衛門が明らかに彼女のことを好きなのを大御所が面白がって、ラスト近くでも「行けよ、もう付き合っちゃえよ」みたいに促すんですけど、新左衛門は「今日はその日ではない」と答えて応じない。
この、抑制が効いているのが素晴らしいです。

劇中、新左衛門と大御所は真剣で殺陣を撮ることになり、優子さんは心配してずっと反対していたけど止めることができず、その撮影が終わった後に「パチーン」と新左衛門の顔を引っぱたくんですが
この、パチーンと叩くことで「彼女も新左衛門のことが好きなんだな」とハッキリ分かるんですね
他人に対する態度じゃなくなってるので、好きなんだと分かる
こういう所がこの作品はレベルが高い。観客の知性を馬鹿にした説明やナレーション/モノローグで不快にさせられるような映画とは全く違います。安田監督の脚本・演出は本当にレベルが高い。

品のある演出

まぁこんだけ評判が高く、ワタシなども「2024年ベスト映画」と称賛していても、人によっては「良い」とも「面白い」とも思わない場合も当然あるでしょう。
結局「合う、合わない」「好き、嫌い」は人それぞれとしか言いようがないですから

私の場合は、安田監督の演出がすごく自分の好みというか、生理的感覚と合ってました。

大ざっぱに言うとこの作品は「笑って、泣いて」というタイプのコメディで
劇中で登場人物が泣いてるシーンも何回もありますが、
安田監督の演出は観客に向かって「ここで泣け!」みたいに押しつけたり、「お前らこういうシーンやれば感動すんだろ?」みたいなナメた態度は取らないですから、良心的なので好感度が上がるばかりです。

走ればいいと思ってる。
雨に打たれながら叫べばいいと思ってる。
余命が無ければ観客が感動すると思ってる。
役者がギャーギャー怒鳴るのが熱演だと思ってる。

日本映画がダメになったと言われるようになってから、こういうのが本当に多くてウンザリするんです
予告だけでもうウンザリして、金もらってもこんなの観ねぇと決意するんです

『侍タイムスリッパー』にもありますよ、雨に打たれながら叫ぶシーンは
侍は幕末の京都で雨が降ってきて雷が落ちた時にタイムスリップしたので、現代の京都で雨が降り雷が鳴り始めた時に刀を振りながら「落とせ!」と必死に空に向かって叫びます。また雷が落ちれば元の時代に帰れるかもと思ったからです。
これはストーリー上必然性のあるシーンであって、「ただ雨に打たれて叫べばいいと思ってる」のとは違うんです。

それと感心したのは「登場人物のルックスの作り方」 特に服の選び方ですね~~
ヒロインをメガネっ娘にしたのが「センスいいな」と感じましたし
(そのメガネ自体も慎重に選んであるんだろうなと思える、彼女に似合ってて可愛く見えるメガネ)
このメガネと、ひとつにまとめた髪、ボーダー柄のポロシャツと、撮影現場を走り回る仕事に合っていつつ、印象的でヒロインが魅力的に見えるルックスが作られてました。

それ以外で特に良かったのは大御所の私服。
特に、ジャケットの中にタートルネックを着てるところがすごく良くて、あっ大御所ってこういう格好してそう……という説得力がありました
いいセレクトしてるな~~って感心しましたね

山口馬木也の名演技

主演の山口馬木也さんが最初から最後まで名演です。
こんなに役者の名演技を堪能させてもらった映画というのもなかなかありません。

このタイムスリップ侍・高坂新左衛門は難しい役です。
山口さんは『剣客商売』の秋山大治郎を演じたくらいですから、殺陣の実力は間違いないですが
殺陣ができるからできる役ってモンでもないし……
現代人の中に一人だけ「本物の侍」が混じっている状況、それを演じる役者の演技に説得力がなければ、この作品自体が成立しなくなります。

で、説得力あった。すごくあった
そして馬木也さんは「侍」という「記号」を演じるような事をしていない。自分が演じる人物を人間として尊重し、真面目に接しているのがよく分かります。
会津藩士を演じるにあたり、「会津の侍という記号」にしてしまうこともない。
どんな役でもその人物は「記号」でも「類型」でもなく、唯一無二の「個人」であるということ、これをちゃんと考えてそうな役者をそう多くは見かけないです。
(ま・脚本がそもそも低レベルで演出も雑という場合は、役者が悪い訳でもないんでしょうが)

新左衛門がいちごショートケーキを食べておいしくてビックリする場面、
「誰もがこれを食べられるとは……日の本は良い国になったのですね」
と泣くところでは、3回観て3回ともつられて涙が出ました。

私はいつもは「映画観ていちいち泣いてられるかよ」という態度でツンとしてるんですが(笑)
何故だかこの作品では画面の中で馬木也さんが泣くと自動的に私も涙が出るという不思議現象が……
映画で泣く/映画が観客を泣かそうとすることに価値を感じてないワタシが泣かされる、この演技の力!

しかし更に深刻に胸を打たれたのが、もっと後の方の
「新左衛門が、自分がタイムスリップしていなくなった後で会津藩の人達がどんな目に遭ったかを知る場面」
でした。
新左衛門は強いショックを受け、泣きながら手を合わせるんですが
この手を合わせる動作にハッとさせられました。
「そうだ、昔の人なら確かにこういう時にこうやって手を合わせるだろう」と、すごく納得したんですよね
この時の新左衛門の心の痛み、「俺はこんな所で何をやっているんだ」という気持ち、のんきに「ケーキおいしい~☆良い国になったのですね」なんて言ってたことにも激しい自責の念を感じたろうし、精神的にボロボロになって撮影もうまくできなくなってしまうんですが、
ここは本当に、新左衛門の苦しみを自分の苦しみのように切実に感じましたですね 3回観て3回とも!(共感し過ぎ)

もう一つ、入門していた殺陣の先生のところに「暇願」を持っていくシーンだったか、
この時はもう新左衛門は髪も服も現代に適応していて、ジーンズ姿なんですけども
ジーンズを履いていても、袴を履いてる時のような立ち方をしてるんですよ!
これはもう最初観た時にやけに感動しましたね
これは演出の手柄か?役者の手柄か?と考えてよく分かりませんでしたが
とにかく、こういう細かい所まで神経の行き届いた演技というのは、つまり観客に対する敬意でもあるんですよね。

キャストがみんな良いのがスゴイ

日本アカデミー賞に価値を与えた作品

うし子
うし子

……。
スイマセン、いつまで経っても書き終わらないので、もうDVDも出ちゃったし時代劇専門チャンネルで放映もされるので、途中までしか書いてないですがもうアップしちゃいます(爆)
そのうち書き足すと思います(笑)(笑)スイマセン(笑)

ノッブ
ノッブ

エッ……。
ひどくない?そんなのアリ??

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